『セラピードッグの子守歌』
―認知症患者と犬たちの3500日―
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眞並恭介著 |
■失われた〈自分〉をさがして――
認知症患者と犬たちの長い旅路
私の驚きは疑問に変わった。ここでは何が起きているのか。
なぜ、犬が認知症患者を、癒されざる人々を癒せるのか。どのようにして、犬たちは記憶を失っていく人の閉ざされた心の扉を開き、言葉と笑顔を呼び戻すのだろうか。それを確かめたかった私は、ドッグセラピーの現場で人と犬の間に起きた出来事を追った。動物介在療法の未開地に、人と犬がたどった歩みを、希望の匂う足跡を追いかけた。(序章より)
生きものの世話をし命を気遣うことが、ほんの一時であっても、ケアの対象者を一人の生活者に変える。要介護者を介護者に変える。
目の前の人が自分を必要としていることを、犬は感じとって寄り添う。知の世界が壊れても、感情の世界に生きる人間の孤独で高貴な精神の在りかを犬は知っていて、畏敬するのだ。(終章より)
記憶は死滅することなく、眠っていたのだ。わずかに残っている記憶には、人生が凝縮し、結晶している。
盲導犬が人を目的地に導くように、セラピードッグは人を記憶の在りかに導く。そこには涸れることのない記憶の泉がある。(終章より)
■目 次
- 序 章 よみがえる記憶、言葉、安らぎ
- 第1章 家族が認知症になったら 〜家と施設の狭間で
- 第2章 ドッグセラピーの黎明 〜犬の記憶をたどって
- 第3章 人と世界をつなぐリード 〜つながりを失った人たち
- 第4章 記憶を呼び起こす子守歌 〜よみがえる歌と笑顔
- 第5章 記憶に残る出会いと別れ 〜ふるさとの記憶をめぐって
- 第6章 仕事する犬たち 〜ただいまセラピー修業中
- 第7章 なぜ犬が? 〜効果を生む要因を探る
- 第8章 あふれ出す笑い 〜「犬とふたり」の世界
- 第9章 「自己表現」の回復 〜自分を取り戻す
- 第10章 「情動のゲート」が開く 〜犬舎に来れば別人
- 第11章 認知症と記憶の脳科学 〜治療手段としての可能性
- 第12章 認知症への新たな挑戦 〜普及のためのエビデンス
- 終 章 記憶の泉へ
- あとがき